「17音の小宇宙―田口麦彦の写真川柳」
 
第11回 2009/09/04


    

 私は、いま西日本新聞の「ニュース川柳」(毎週、火・木・土掲載)の選者として時々刻々移り行くニュースを題材とした作品の選句に取り組んでいる。
 そこで感じるのは「ニュースが一週間持たない」ということである。もちろん持つか持たないかは感覚の問題であろうが、一週間前に起きたことが掲載時点では古いと思われやすい状況にある。それほどいろんなニュースが毎日起きていて、情報もすぐに変わる。
 ニュースが消費されてすぐに消え去るのである。それがどんな原因で起きたのか検証するいとまもなく、次へ次へと事件や事象が発生する。報道にたずさわる人たちには日常のことであろうが何か危うさを感じる。まして、それを創作の場とするものは、よほど心してかからぬと本質を見誤る。
 この句がテーマとしたのはT商事事件。昭和60年(1985年)に起きた事件で、高齢者が対象となった大がかりな詐欺商法である。被害者は数万人。被害総額は二千億円近くと言われる。
 結末は、その会長が多くのマスコミ関係者の目前で刺殺されるということとなる。
 血まみれの凶器を手にした犯人がテレビ画面に写り、遺体が撮影されるというシーンもあった。報道のあり方についても問われた事件である。


(c)Mugihiko Taguchi


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