「17音の小宇宙―田口麦彦の写真川柳」
 
第13回 2009/09/18


    
   振り返るたびに寺山修司かな

Photo by kuniko sakamoto

 寺山修司(てらやま・しゅうじ1935年〜83年) 劇作家・演出家・歌人。青森県生まれ。早大中退。劇団天井桟敷を主宰。多彩な演劇実験を試みた。歌集『空には本』など。
 晩年は劇作家、演出家として活躍したが、私には昭和29年、寺山修司19歳のとき「チエホフ祭」一連の歌でデビューした短歌人としての活躍が印象的である。
 私がこの句を詠む動機となったのは、みなさんよくご存知の次の一首。

  マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや  寺山修司

 これほど読む人にインパクトを与える歌は数少ないのではないだろうか。
 人生、青春、個人そして国家のありようをひとからげにして詠み放った一首の精神風景に胸を打たれた。幼少期を海外で過ごした私にとって「身捨つるほどの祖国はありや」の問いかけは強烈だった。日常に埋没しかけている私たちを「きっ」と振り返らせるものがある。
 その寺山修司が多感な少年時代を母とともに過ごした青森県三沢町に寺山修司記念館がある。訪れたいと思いながら果たせなかったが、2007年秋に東奥日報主催青森県川柳大会(青森市)特別講演「川柳 この広くて深いもの」の講師として招かれ、社のご好意で訪れることができた。
 折しも特別企画展「世界を駆け抜けるテラヤマ・ワールド」を開催中で、たっぷり足跡に触れられたのは幸運である。観客には若い人たちが多く、インターネットで調べて駆けつけてきたという東京の女子大生と交流のひとときもあった。
 多彩なジャンルで活躍した寺山修司は、いまなお若者に夢と情熱を与え続けている。



(c)Mugihiko Taguchi

前へ 次へ 今週の川柳 HOME