火の歳時記

NO89 平成21113




片山由美子

 
  【火の俳句】第6回 草食系俳人の句集に火の句は……

 先日、あるところで求められた原稿に、近ごろは「草食系男子」ならぬ「草食系俳人」がふえているのではないかということを書いた。特に、三十代、四十代の俳壇では若手と称される俳人たちにその傾向があるように思う。押し並べて清潔でやさしい印象を与える作風である。今年刊行された句集からつぎの四冊を例に挙げたのだが、その中で「火」の素材はどう扱われているかを見てみたい。

 高柳克弘句集『未踏』
  葉桜や夜の瓦斯の火にみとれたり
  十人とをらぬ劇団焚火せり
  焼藷屋進むあやふきまで傾ぎ
  いつまでも其処を動かず火事の雲
  ちりぢりに燃ゆるや風の夕焼雲

 加藤かな文句集『家』
  炎よく見えて真昼の秋磧
  火のやうにのぞく水面や未草
  終らない線香花火垂らしをる
  顔だけが浮かんでゐたる焚火かな
  燃え跡の出てくる雪の畑かな

 山西雅子句集『沙鷗』
  灯心のひとすぢに秋立ちにけり
  穭田のただ中に火や誰も居ず
  均されて炎みじかきどんどかな
  花火屑幾日か漂うてをり
  灯火は雫のごとし飾売

 森賀まり句集『瞬く』
  蚊遣火やおんなじ顔で眠りゐる
  煙突の休日ならむ稲の花
  火に近く十一月の柱かな
  大き影広げ焚火を囲みけり
  ほつそりと腕のびてゐる春火鉢
  セーターをたひらに畳む畦火かな
  古草や海の匂ひの火を焚きぬ
  膝もとに引きくづしたる門火かな
  菜の花や風呂に大きな木をくべて


 収録句数は『未踏』が三五七句、『家』が三〇〇句、『沙鷗』と『瞬く』は明記されていないが三五〇句前後である。句数が違うので単純に比較はできないが、火を素材として広く考えてみても決して多くない。「草食系」と直感した所以でもあり、興味深い結果となった。





 (c)yumiko katayama

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