感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第47回 2010/03/16   

  原 句  飛び交ひし小鳥の影や春めけり

 すべてのものが春らしく感じられるようになってきました。「春めく」という季語が実感を伝えています。
 この句は、小鳥たちの影に目を向けて、明るく淡い春の日差しを感じさせています。気になったのは、「飛び交ひし」という過去の表現です。ここを今現在のこととして表現すると、一句には臨場感が出て、生き生きとしてくるのではないでしょうか。
 中七の「や」は、一般に切字として使われることが多いのですが、この句の場合は軽い切れで、末尾の「春めけり」の断定で大きく切れています。

  添削例  飛び交へる小鳥の影や春めけり

 



  原 句  摘草の畦やはらかくくづれをり

 春の野に出て蓬や芹、土筆などの野草を摘む情景を、よく見かけたものです。今はあまり見られなくなりましたが、それでもまだ見かけることもありますし、案外気軽に体験できる季語でもあります。
 この句は田んぼの畦に芹でも摘んでいるのでしょうか。霜や雨でやわらかくなっている畦の土に、踏んで崩れたあとを見たのでしょう。写実の句ですが、「やはらかく」に叙情があります。
 「やはらかく」は作者がこの景を見て感じた印象なのです。その分魅力的ともいえますが、実際に踏んだときの感覚として詠んだ方が、句としてはすっきりとします。前の句と同じように、臨場感が出て読者が追体験できる句になるのではないでしょうか。

  添削例  摘草の畦やはらかくくづれけり

 土の匂いが立ち上ってきます。もちろん実際に畦を踏み崩すことは避けるべきですが。


 水平線

(c)kyouko ishida
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