「絆」―家族で楽しむファミリー句会 第25回

実施日 2011年6月18日 場所 自宅





 こんにちは、佐怒賀家です。
 
 時間はあっという間に過ぎてしまうものでして…。
 5月に続き、父の日を前に琴美が帰って来ましたので、何とか6月にも句会を開くことが出来たのですが、ご報告もせねまま、いつしか7月も終わろうとしております。
 この時は、午後8時00分より作句開始。午後9時15分より1時間余りの句会になりました。
 それでは、「父の日イヴ」句会の模様をご報告させて頂きます。


 草を引く蟻の一国もろともに
 梅雨の夜の秒針の音増幅す
 鳴けば鳴く間合崩るる梅雨鴉
 巨人めく山蟻の列跨いでは
 ()と過ごす一日(ひとひ)暮れたる冷し酒
 一家安泰甚平の袖つつぱつて           直美(通称:おとう)


 子カマキリとことこ濁世果つるまで
 ビスケットは四角父の日は明日
 時の日の相槌打つてテレビ見る
 こめかみのじんはり痛む薄暑かな
 脳天気にアイスコーヒー二杯飲む
 麦秋や軽トラックが跳ねて行く
 宝くじはづれし梅雨の夜の騒ぎ         由美子(通称:ままい)
 

 くさめ三回丸まる猫や梅雨の晴れ
 馬跳ねて五月の風は回転す
 梅雨空や片足けんけん二往復
 めいっぱいペダル回して五月闇
 梅雨寒し雲の厚さを確認す             琴美(通称:ねね)


 甚平を羽織った父見る外の猫
 梅雨の日に前のめりにして額飾る
 父の日の胡瓜残った手巻ずし            筑美(通称:つう)
 

 結果は次の通りです。


  直美選  ◎子カマキリとことこ濁世果つるまで   由美子
       ○麦秋や軽トラックが跳ねて行く     由美子
       ◎馬跳ねて五月の風は回転す        琴美
       ○めいっぱいペダル回して五月闇      琴美
       ○梅雨寒し雲の厚さを確認す        琴美
       ○梅雨の日に前のめりにして額飾る     筑美
       ○父の日の胡瓜残った手巻ずし       筑美


  由美子選 ◎巨人めく山蟻の列跨いでは        直美
       ○娘と過ごす一日暮れたる冷し酒      直美
       ○一家安泰甚平の袖つつぱつて       直美
       ◎梅雨寒し雲の厚さを確認す        琴美
       ○くさめ三回丸まる猫や梅雨の晴れ     琴美
       ○梅雨空や片足けんけん二往復       琴美
       ◎父の日の胡瓜残った手巻ずし       筑美
       ○梅雨の日に前のめりにして額飾る     筑美


  琴美選  ◎草を引く蟻の一国もろともに       直美
       ○梅雨の夜の秒針の音増幅す        直美
       ◎子カマキリとことこ濁世果つるまで   由美子
       ○時の日の相槌打つてテレビ見る     由美子
       ◎父の日の胡瓜残った手巻ずし       筑美


  筑美選  ◎梅雨の夜の秒針の音増幅す        直美
       ○一家安泰甚平の袖つつぱつて       直美
       ◎脳天気にアイスコーヒー二杯飲む    由美子
       ○時の日の相槌打つてテレビ見る     由美子
       ◎梅雨寒し雲の厚さを確認す        琴美
       ○梅雨空や片足けんけん二往復       琴美




 選句の後は、それぞれの句について、みんなで意見交換をしました。

 まずは「つう」の句についての選評です。

☆ねねは、「父の日の胡瓜残った手巻ずし」をとりました。何というか、素朴で、「胡瓜が残った」というところに注目したのが面白いなと思いました。あとは、「甚平を羽織った父見る外の猫」もいいかなとは思ったのですが、「梅雨の日に前のめりにして額飾る」は、「額」が前のめりなのか、「つう」が前のめりなのかが、よく分かりませんでした。(ねね)

☆ままいも特選には「父の日の胡瓜残った手巻ずし」をとりました。やっぱり素直だったのが良かったと思います。それと、ままいはさっきの「梅雨の日に前のめりにして額飾る」もとりましたが、ままいはつうがジグソーパズルの額を作っていたのを知っていたので、その額を「前のめり」に飾ったんだろうなって分かりました。でも、ねねの言うように曖昧かもしれませんが、そこはまた推敲してもらって、今後の発展を期待するということで…(笑)。それから、「甚平を羽織った父見る外の猫」は、捉えている情景は面白いんだけど、言葉がいっぱい詰め込まれすぎてしまった感じがして、残念でした。(ままい)

★今回は突然だったんで、時間がなくて…。(つう)

☆そうだよね。つうはこの前みたいに、たっぷりと時間を掛けて作ればいいのが出来ると思うよ。(ねね)

☆でも、時間がなくて出来ないって、悲観的なことを言っていたけれど、そんなこともなかったんじゃないかな。(ままい)

★この「甚平を羽織った父見る外の猫」はね素晴らしかったんだよ。おとうが二階で仕事をしていて、その部屋の前のベランダにミケ(注:良く登場する三毛の野良猫です)がいて、ブラインド越しに部屋の中を覗いて、しっかりとおとうのことを見てたんだよ。いい絵だなと思ってね、作ったんだけど、いろいろと言い過ぎちゃったかな。(つう)

★残念ながら特選はありませんでしたが、おとうは「梅雨の日に前のめりにして額飾る」と「父の日の胡瓜残った手巻ずし」をとりました。「父の日の胡瓜残った手巻ずし」はねねやままいが言ったように素直でいいんじゃないかな。「残った」がちょっと口語的過ぎるから、「胡瓜の残る」くらいでいいのかな。実は、「父の日」も、「胡瓜」も「寿司」も季語ではあるんだけど、「父の日」が強い季語だから、これはこれでいいんじゃないかな。「梅雨の日に前のめりにして額飾る」は、おとうも一緒にいたから良く分かったんだけど、「前のめりにして」はやっぱり分かりづらいかな。それと、「梅雨の日」の「日」は必要ないよね。「梅雨晴れの」でも、「青梅雨の」でも、いろんな季語があるから、探してみるといいよね。「甚平を羽織った父見る外の猫」は、やっぱり少しごちゃごちゃしてるかな。「甚平を羽織った父」は「羽織った」って言わなくても分かるしね。(おとう)

★ええ、でも「甚平の父」だと、何か変だな。ワンピースの「甚平」(注:漫画の登場人物です)の父みたいだし…(笑)。(つう)

★まあ、いろいろと考えてみましょう。(おとう)

  

 次は「ねね」の句です。

★つうは、今回の中で一番いいと思ってとったのは、ねねの句です。「梅雨寒し雲の厚さを確認す」は、梅雨の寒い日の雲の厚さを確認しているのがいいと思ったからです。(つう)

☆そのまんまじゃない(笑)。(ねね)

★そのまんまだけど…(笑)、いかにもその情景が浮かぶってことで、一番しっくりときた句でした。「梅雨空や片足けんけん二往復」は、ちょっと怪我でもしたのかもしれないんだけど、これも何となく好きでした(笑)。(つう)

☆ままいも、「梅雨寒し雲の厚さを確認す」を特選にとりました。「雲の厚さを確認す」が、いかにも「梅雨寒」の感じだなあと思います。「梅雨空や片足けんけん二往復」はままいもとりました。足を怪我してるっていうことがあるのかもしれないけど、別にそうでなくても、この情景はちょっと俳句になるのなかって思ってとりました。それから「くさめ三回丸まる猫や梅雨の晴れ」もとりました。(ままい)

★「くさめ」って何? (つう)

☆「くしゃみ」のことだよ。(ままい)

★なんだ、くしゃみかい(笑)。つうは、「くさめ」って、何か草で作った罠みたいなもので、そこに猫が三回も引っかかって丸まってて、かわいそうだなって思っちゃったよ。(つう)

☆それはそれですごい想像だけど、そのくらい分かれよって、感じだよね(笑)。(ねね)

☆ままいは、この句は何だかほんわかしてて好きでした。(ままい)

★おとうは、「馬跳ねて五月の風は回転す」を特選にとりました。(おとう)

★ええっ、風が回転してんだぜ(笑)。(つう)

★うん、それがいいんじゃない。他の句は、当たり前って言えば当たり前なのかもしれないけど、この句は「馬跳ねて」と「五月の風は回転す」は、別に何の関係もないんだけど、こうやって一句になると、一つの世界ができあがってるんじゃないかな。(おとう)

☆私の中では大いに関係があるんだけど…。風が吹くと馬が跳ねるからね。(ねね)

★うん、でもそれだと面白くないんだよね。「風が吹くと馬が跳ねる」だとね、原因・結果の説明になっちゃうでしょ。そうじゃなくて、「馬が跳ねている、そして五月の風が回転している」っていう、無関係そうな二つのことをぶつけたところがおもしろいんだよね。作者が毎日馬の世話をしていることが分かると余計に面白いよね。「五月」の季語が効いてくる。生き生きとした季節感が良く伝わっていると思うよ。「めいっぱいペダル回して五月闇」もとりました。(おとう)

★ねねは今日は良く回すねえ(笑)。(つう)

☆そう、回したい気分で…(笑)。(ねね)

★これは「五月闇」がいいのかな。「めいっぱいペダル回して」はまあ当たり前なんだけど、それが「五月闇」っていうのが面白いのかな。それから、つうとままいのとった「梅雨寒し雲の厚さを確認す」、これもまあいいんじゃないかな。でも、季語は「梅雨寒」じゃないほうがいいんじゃないかな。「梅雨寒」だと「雲の厚さ」が当たり前になっちゃうかな。もっといい季語があると思うな。それと、これは形の問題で、「梅雨寒し」で切れて、「確認す」でも切れてるよね。出来れば切れは一カ所にしたいよね。「くさめ三回」は、それだけで面白いんだから、「丸まる」まで言わなくても良かったのかな。ちょっとごちゃごちゃしちゃった感じかな。「片足けんけん」も面白いんだけど、「二往復」にひっかかっちゃたな。おとうはこの「片足けんけん」は遊びの「けんけん」だと思ったんだけど、「往復」だけでもちょっと長いイメージで、それが「二往復」だとね。「往復」だけで良かったんじゃないかな。でも、即席で作ったにしては、つうもそうだけど、なかなか良く出来たんじゃないかな。(おとう)

  

 続いては「ままい」の句です。

★つうは、「脳天気にアイスコーヒー二杯飲む」をとりました。「脳天気」が面白いと思いました。暑くてボーっとしている感じが良く分かりました。もう一つは「時の日の相槌打つてテレビ見る」で、テレビに向かって「相槌」を打っている様子が、何だか「時の日」に合っている様な感じがしました。後の句についてはコメントを控えさせて頂きます(笑)。(つう)

★☆☆ (笑)

☆ねねは、「子カマキリとことこ濁世果つるまで」をとりました。ねねも「子カマキリ」の」句を作ろうと思ったんだけど、なかなかそれを上手く使えなくて…。でも、ままいの句は、小さい「子カマキリ」と「濁世」っていう大きなものとが…。(ねね)

★「濁世」って何? (つう)

★字のまま、「汚れた世の中」ってことで、まあ「人間世界」っていうか、「この世」って考えていいのかな。(おとう)

☆とにかく、その小さなものと大きなものとの対比が良かったと思いました。もう一つはつうと同じで、「時の日の相槌打つてテレビ見る」で、「時の日」って特別な日なのかもしれないけど、だからといってどうするでもなく、いつものように「相槌打つてテレビ見る」っていうのがいいなあと、和みの句だなあと思ってとりました。「脳天気にアイスコーヒー二杯飲む」は内容は良かったんだけど、何か「脳天気に」ってのがしっくりしなかった感じかな。「ビスケットは四角父の日は明日」は何か標語みたいで…(笑)。「こめかみのじんはり痛む薄暑かな」は、お母さん大丈夫ですかみたいな…(笑)。(ねね)

★でも、つうは結構好きだった。(つう)

☆「麦秋や軽トラックが跳ねて行く」は、うーん、分かるようで分かんなかった。「宝くじはづれし梅雨の夜の騒ぎ」は、「夜の騒ぎ」がどうなのかあって感じでした。(ねね)

★おとうも特選はねねと一緒で、「子カマキリとことこ濁世果つるまで」をとりました。ねねが言ったように、大小の対比の面白さもあるし、「子カマキリ」の純粋さ・ピュアな感じと「濁世」とも対照的だし、その「果て」まで行くっていう捉えかたも良いかなと思いました。「麦秋や軽トラックが跳ねて行く」は、情景の見える写生の句なのかな。(おとう)

★つうには、「軽トラックが跳ねて行く」が良く分かんなかった。本当は「麦秋」も良く分かんないんだけど…(笑)。(つう)

★「麦秋」ってのは、麦が稔って黄金色になる頃のことで、「秋」ってあるけれど初夏の季語で、稲が稔る「秋」のようだっていうので「麦の秋」、「麦秋」って言うんだよ。「軽トラックが跳ねて行く」ってのは、その黄金色に輝いている麦畑の中のでこぼこ道を、軽トラックが跳ねるように走っている様子だよね。「軽トラック」だから、いかにも「跳ねて行く」感じなんだよね。明るくて良い句なんじゃないかな。「ビスケットは四角父の日は明日」は、事柄の面白さで二つをくっつけちゃった感じで、今ひとつかな。「時の日の相槌打つてテレビ見る」は、もっと良い季語があると思う。「こめかみのじんはり痛む薄暑かな」も季語の問題かな。少し原因・結果的な匂いがする。「脳天気にアイスコーヒー二杯飲む」は、「脳天気」の言葉がどうなのかな。これももっと良い言葉があるような気がする。「宝くじはづれし梅雨の夜の騒ぎ」は、事柄の報告になっているのかなって感じだね。(おとう)

  

 最後は「おとう」の句です。

★おとうだけ前から作ってあってずるいけど、その割りにはそれほどでもなかったと思います(笑)。(つう)

★☆☆ (笑)

★つうがとったのは、「梅雨の夜の秒針の音増幅す」です。全体的に良く分かんなかったんだけれど、この句は、雨が降っていてその音の中で時計の音を聞いていると、かえっていつもより秒針の音がはっきりと聞こえるように感じて、それを句にしたんだと思うんだけれど、その感覚がつうにも分かったのでとりました。もう一つはどれをとろうか迷ったんだけど、「一家安泰甚平の袖つつぱつて」をとりました。「一家安泰」はあんまり好きじゃなかったんだけれど、「甚平」つながりで選びました。「草を引く蟻の一国もろともに」は、おとうが草取りをして蟻の巣をぶっ壊しちゃったっていう句なんでしょう(笑)。(つう)

★☆☆ (笑)

★「巨人めく山蟻の列跨いでは」もそうなんだけれど、おとうが巨人化してるんだけど、それがどうなのかなあって感じかな。「鳴けば鳴く間合崩るる梅雨鴉」は、「梅雨鴉」っていう言い方がしっくりとこなかった感じかな。「娘と過ごす一日暮れたる冷し酒」はダメだよ(笑)。「娘」を使って、最後に「酒」が来るなんてね(笑)。(つう)

☆ねねは、「草を引く蟻の一国もろともに」をとりました。勢いがあって、「エイヤッ」て草を抜く潔さみたいなものを感じました。「一国もろともに」の表現も好きでした。つうもとった「梅雨の夜の秒針の音増幅す」は、梅雨の夜の雨音って一定の感じだから、かえって静かに感じるっていうか、そういう感じが良く出ていると思いました。「鳴けば鳴く間合崩るる梅雨鴉」は、分かるようで分からなかったのと、やっぱり「鴉」は「鴉」でしょう、「梅雨鴉」は姑息だよね(笑)。「巨人めく山蟻の列跨いでは」は、さっきのままいの「子カマキリ」の句は大小の対比が上手くいってたと思うんだけど、この句は何か作った感があってとれませんでした。「娘と過ごす一日暮れたる冷し酒」は、何のこっちゃ、という感じで、特に「一日暮れたる」あたりが良く分かりませんでした。お酒は飲みたいけどね…(笑)。「一家安泰甚平の袖つつぱつて」は、「一家安泰」が効いていない気がしてとりませんでした。(ねね)

☆ねねの話を聞いていたら、「草を引く蟻の一国もろともに」をとれば良かったかな、なんて思いましたが、特選には「巨人めく山蟻の列跨いでは」をとりました。この句は、そういう気持になりそうな感じがしたので…。あとは、「娘と過ごす一日暮れたる冷し酒」をとりましたが、これでは幸せすぎてダメだなとは思いました。こんな状況が展開できるのはまあ良かったですね、って感じですかね。「一家安泰甚平の袖つつぱつて」は、ねねも言っていたように「一家安泰」がそれほど効いていないと思いましたが、そつなくはまとまっているのかなと思ってとりました。「鳴けば鳴く間合崩るる梅雨鴉」は、「鳴けば鳴く間合崩るる」までは良いんだけど、やっぱり「梅雨鴉」に引っかかりました。「梅雨の夜の秒針の音増幅す」は、まあまあ普通かなって感じです。(ままい)

☆おとうが一番好きなのはどの句なの。(ねね)

★おとうは「草を引く蟻の一国もろともに」かな。(おとう)

★じゃあ良かったね。他のはいろいろ言われたけど、「草を引く」はみんな良い評価だったもんね。(つう)

★ありがとうございました(笑)。(おとう)

★ままいはどれなの。(つう)

☆ままいは、「子カマキリとことこ濁世果つるまで」かな。可愛い感じが出せたかなって思うし…。(ままい)

☆ねねは、みんながとってくれた「梅雨寒し雲の厚さを確認す」です。(ねね)

★つうはね、情景としては「甚平を羽織った父見る外の猫」だけど、今回はどれもちょっとね…。(つう)

  

 と、今回は自分の句の中で一番好きな句を述べ合って、句会終了となりました。


 次回はまたいつになるのやら。
 気長にお付き合い下さい。

 それでは、またお会いいたしましょう。










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