感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第58回 2011/2/1   


  原 句  日だまりを選んで歩く親子連れ
 
 日は伸びてきましたが、まだまだ日だまりの恋しい季節。夏の間は「片蔭」を選んで歩いていた人たちが、日の当るところを歩いてゆきます。小さい子どもでしょう。素直な一句です。
 さて、よく見るとこの句には季語がありません。「日だまり」が冬の季語のような役目を果しています。冬の日だまりを表現するのにふさわしい季語には「冬日向」ということばがあります。「冬日」「冬の日」など、日差しを表す言葉もあります。またこの句は、寒いから日向を選んで歩いている、という説明が中心になっていて少々物足りなく感じました。説明を省いてみましょう。

  添削例1  親子連れ冬の日向をとほりけり

 これで情景は十分描けているはずです。もう少し人物に迫ってみます。

  添削例2  親と子と冬の日向をとほりけり

 これがもし自分なら、

  添削例3  幼きと冬の日向をゆきにけり

 「幼き」は「幼き子」を略した言い方です。


 水平線


  原 句  一本の山毛欅枯れてをり杉の山
 
 写実的な句で、心を惹かれます。「枯れ」が冬の季語で、今、落葉樹は葉を落とし尽くした「裸木」になって、樹形をあらわにしています。それが常緑の杉山に一本だけ白っぽく目立っていたのです。
 参考として、俳句ならではの表現法を使い、より写生的な作品にしてみましょう。

  添削例  一本の山毛欅枯れてあり杉の山

 一本の木が冬芽を光らせて強く枝を張っている姿が感じられるのではないでしょうか。


 水平線

(c)kyouko ishida
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